【開発ストーリー IVE編 vol.1 寄り添うための高性能】

IVEは2015年のサイクルモードで発表され、翌年からデリバリーが始まりました。

発表当初は、スポーツ性に特化していない、扱い易くフレンドリーな走行性が「Tyrellは自らのアイデンティティーを捨てて、他社製品の模倣に走った・・・。」と、ミニベロファンから厳しいお言葉を頂戴する事も有りました。

高いスポーツ性に拘る Tyrell のモデルラインアップ中で、フレンドリーな外観と扱い易い走行性のIVEが、Tyrellのアイデンティティーを反映しないモデルだと思われてしまったからだと思います。

コンパクトに折り畳めて普段の使い勝手が良い・・・、折り畳みバイクの紹介テキストでは良く聞くフレーズですし、IVEだけが持っている特徴でもありません。
また、ミニベロやスポーツバイクに乗りなれている方が走らせた場合、癖が無く穏やかな走行性のIVEは、特別な感動を感じて頂けるとは言えないのかもしれないです。

このブログで何度もお伝えしているTyrellのアイデンティティ「製品を通してEmotionalな体験をユーザー様と共有する」為に作られた、他には無い圧倒的な輝きがIVEからは感じられない・・・と・・・

今でも、IVEに対してその様なお話を頂戴する事が時々あります。「IVEはTyrellらしくない。」と・・・

でも、僕はIVEも間違いなくTyrellのバイクだと自信を持ってお話が出来ます。
それではどうして、IVEはTyrellらしくないと言われてしまうのでしょうか?
そして、そう思われてしまうIVEが、どうしてTyrellは自信をもって僕達にしか作れないと言えるのでしょうか?

今回も長くなりますが、お付き合いくださいね。



◆IVEのコンセプト
・小径車に初めて乗る方でも安心して楽しめる走行性能
・どんな使用条件にも対応出来る、使い勝手の良さと高い拡張性
・スポーツライドにも対応出来る高い基本性能
・他にはないIVEだけのデザイン
・手頃な価格設定

何だか何処にでもある普通~な感じのコンセプトですね。
このコンセプトに沿って作られているのですから、独自性が無いと言われても仕方が有りません・・・
でも、それを実現して実際の自転車に仕立てる方法論が他とは違っているんです。

◆高性能バイクって・・・?
Tyrellの自転車には、Emotionalが必要です。
その為には高性能でなければなりません。
では、高性能バイクってどんなバイクなんでしょうか?

恐ろしく軽量でペダル入力をロスなく推進力に変換し・・・
「高性能バイク」と言うフレーズに皆様がお持ちのイメージって、素晴らしく優秀なレーシングバイクと言うのが一般的なイメージではないでしょうか。

世の中にある一般的な評価基準にてらしても、バイク(自転車)の性能を語るときは、そういったレーシング性能で語られることがほとんどですよね。

「より高いスピードが欲しいから、より高い性能が求められる。」というシンプルな図式、高性能バイク=レーシングバイクと言うイメージは間違っていないと思います。

皆さんはシリアスにスピードを求めないコンセプトの自転車には高性能な車体って不要だとお思いではないですか?
そこそこの性能が有れば事足りると・・・

IVEはシリアスにスピードを追求する自転車達とは対極に位置するコンセプトの自転車です。
では、IVEのフレームはそこそこの性能で十分なのでしょうか?
Tyrellはそうは思いません。

IVEが初めて到着した時の、荷下ろし。ドキドキしたな~。
初めてIVEが工場に来た時の画像です。みんなでドキドキしながら荷下ろししました。

◆IVEが求める高性能
テクニックに自信がない方、初めてミニベロ(以下、小径ホイールの折り畳み自転車を含んだ表現とさせてくださいね)に乗られる方にも、より深くサイクリングの楽しさを感じて頂きたい・・・

僕たちは全てのお客様にEmotionalを感じて頂きたいんです。
IVEは前出の様なお客様に向けて開発されました。

ちょっと話が逸れちゃいますが・・・
最近の自動車では様々な運転支援機能が注目されていますよね。
レーシングドライバーの様なテクニックが無くても、車がドライバーのテクニックを支援して、安全で快適なドライブを可能にする技術・・・

自転車にだって、乗り手のテクニックを支援する性能って必要だと思いませんか?
「ライディングテクニックに自信が持てない。」「スポーツバイクに乗ったことが無い。」そのような方々が、サイクリングで感じている様々なストレスを自転車がカバーしてくれたら・・・

そんな自転車が有れば、サイクリングがもっと楽しくなると思いませんか?
「乗り手に寄り添う為に必要な性能を高める」ってとても大切な事だと思うんです。
それを追求しているのがIVEなんですよ。
速く走る為ではなく、安心して快適に走る為の高性能バイクがIVEの本質なんです。

◆寄り添う為に必要な要件
ミニベロに初めて乗られる方や、ご自身のライディングに自信を持てない方が、自転車のライディングを楽しむ為には何が必要でしょうか?

製品開発の視点で考えると、先にも書かせて頂いた、自動車の運転支援技術の様に、乗り手のテクニック不足を車体がカバーしてくれる事なんだと思います。

では、具体的にどんな時に、どんな支援が有れば良いのでしょうか?

スタッフの奥様でミニベロが苦手な方が居たのですが、その方はロードバイクには乗られるんですね。
どうしてミニベロが苦手なのかお尋ねした所、「フラフラするから・・・。」と・・・Tyrellだけではなく、他の有名メーカーのミニベロ達も全くダメで、怖くて乗れないと・・・

そう言えば、グループライドの際に「下り坂で怖くてスピードが出せない。」とか、「凸凹の路肩走行が怖い。」とか、低速走行時に「ハンドサインが怖くて出せない。」といった様々な理由で、「緊張してしまいます。」と言うお話はよく耳にします。

でも、それらの状況ってサイクリングの時に普通に有る事ですよね。皆さん、サイクリング中の多くの時間で緊張してしまっているんです。
その緊張してしまう原因の大部分を自転車がカバーしてくれたら、サイクリング中の多くの時間をリラックスする事が出来て、サイクリングがもっと楽しくなると思いませんか?

特にIVEはシリアスなサイクリストよりも、気軽に自転車を楽しみたい方がメインターゲットですから、このお話は無視できないなと感じました。

そこで、思い至ったのが「怖くならない自転車。」です。
自転車に乗っていて、怖くなる時の状態を分析し、車体側で出来る事を考える事にしました。

例えば、下り坂で怖くなってしまう時ってどんな状態なんでしょうか?
自分の脚力で出せるスピードを超えて、あまり経験が無い領域のスピードまで簡単に上がってしまう事や、その経験があまりないスピード下で自転車がどのような挙動を示すのか予測が付かない事で、「このままスピードが上がって行ったらどうなってしまうんだろう・・・。」という怖さなのかなと思っています。

スピードが上がっても安定性が損なわれず、常に次の挙動が予測出来る自転車と、安定感が無くって次の挙動の予測が付かない自転車では、怖くなるスピードが圧倒的に前者の方が高いスピードになると思いませんか?

又、凸凹の路肩で緊張してしまうのは何故なんでしょうか?
「凸凹にハンドルを取られて、ハンドルが左右に振られる事で自転車を制御できなくなるのではないか・・・。」と言う怖さが有るのかなと。

凸凹でハンドルが取られない自転車は作るのが難しいと思いますが、ハンドルが左右に振られても、進行方向が大きく乱れなかったり、車体全体の揺れが穏やかだった場合は、そうでない自転車と比較して、緊張してしまう度合いが大幅に違うと思いませんか?

この2つの例って、自転車の向かっていく方向が乱される事と、自転車が何処に向かっていくのか予測がつきにくい事で、乗り手が緊張してしまったり怖さを感じてしまうのだと思うんです。

自転車の進行方向が乱れにくく、いつも同じ乱れ具合で安定していれば、乗り手は自転車の動きを予測する事が出来るので、安心して乗れる領域がものすごく広くなると思いませんか?

「そんな事感じられない。」「そんな事考えた事もない。」と仰る方も多いですかね・・・?

でも、そんな事は有りません。
極論ですが、自転車に乗れる方なら、間違いなく皆さん感じ取れています。
具体的にどこがどうなっていると理解していなくても、自転車に乗る事が出来れば、無意識に自転車が向かっている方向を感じながら走ってるんですよ。
何時も乗られている自転車の「いつもの感じ。」を無意識で認識しながら、皆さんも自転車に乗られています。
でなければ、真っすぐ走る事も出来ないはずですから・・・

◆寄り添う為のアプローチ
自転車の進行方向の予測がつき易かったり、ハンドルが振られても進行方向が乱れにくかったりすれば、怖さが軽減されて自転車の楽しさがアップする事はご理解いただけたと思います。

では、その様な特性の自転車を造る為には、具体的にどういった事が必要なのでしょうか?

キャスター角やトレール量と言った操舵感を左右する設計要件を、穏やかなステアリング特性となる様に配慮する事は勿論なのですが、18㌅と言う小径ホイールでは、ハンドルが左右に振れ難くするには限界が有ります。
そこで、ハンドルが振られても進行方向が乱れにくい特性にする事で、高い安定性を得ようと考えました。。

IVEでは長いホイールベース、低い重心位置、太いタイヤとする事で、ステアリングが左右に振られても、進行方向を大きく乱さない走行性に味付けしています。

でも「寄り添う為の高性能」を謳う以上、これらの対策だけでは不十分です。
もっと掘り下げて、もっともっと・・・
TyrellだけのアプローチがIVEにもしっかりと有るんですよ。

IVEに込められたTyrellのDNAとは・・・

めちゃめちゃ長くなるので、今回はこの辺で・・・

今回はフレンドリーなIVEも、しっかりとした高性能フレームを持ったTyrellのバイクなんだという事をご説明いたしました。
次回はその「寄り添う為の高性能」を得る為のロジックを具体的にご紹介したいと思います。

今回も最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!